年齢を重ねると、誰しも「家族に迷惑をかけたくない」「遺産で揉めてほしくない」という想いが強くなってきます。
そんな気持ちから、ご自宅で便箋やノートに遺言書を書き始める方は少なくありません。
しかし、もっとも悲しいのは、せっかく残した遺言が“無効”になってしまうこと。
そして現実には、それが驚くほど多いのです。
相続争いは、財産の多い・少ないに関係なく起こります。だからこそ、遺言書を作ろうと思った時には、「無効にならないための知識」が不可欠です。
この記事では、自筆証書遺言で特に多い5つのミスを分かりやすく解説します。ご自身やご家族の将来を守るために、ぜひ最後まで読んでみてください。
1. パソコン・代筆・音声録音で作成してしまう
自筆証書遺言は、全文を自書(手書き)で作る必要があります。
「文字が汚いからパソコンで…」「手が震えるから家族に書いてもらった」こうしたお気持ちはよく分かりますが、法律上はアウトです。
最近増えているのは、
・遺言内容だけ本人が考え、家族が代筆
・それを本人が署名・押印
というパターンです。
「気持ちは本人のものなんだから良いだろう」と思われがちですが、裁判になれば無効と判断される可能性が高いとです。
なお、法律改正により財産目録についてはパソコン作成も可能になりましたが、
・本文は必ず手書き
・財産目録にも署名と押印が必要
というルールは守らなければなりません。
2. 日付の記載ミス
自筆証書遺言には日付の記載が必須です。ここで意外な落とし穴がよくあります。
例えば、次のようなケースです。
- 「令和7年1月吉日」など、日付が特定できない表現
- 日付の書き忘れ
- 「令和7年1月」だけ、「1日」だけなど一部しか書いていない
なぜ日付が重要かというと、複数の遺言が見つかったときに「どれが最後の遺言か」を判断するためです。日付があいまいだと、最終の意思かどうかが分からなくなってしまいます。
また、次のようなケースも要注意です。
本当は「令和6年12月」と書きたいところを、誤って「令和6年11月」と書いてしまい、
あとから二重線で訂正しても、訂正のための署名・押印がない場合などです。
このような小さなミスが原因で、遺言書全体が無効と判断される可能性もあります。細かいようですが、その細かさが法律の世界なのです。
3. 財産・受取人の特定があいまい
「自宅は長男に相続させる」と書かれていた遺言書がありました。ところが、実際の登記を確認すると、
・土地の名義人と建物の名義人が違う
・一部持分しか記載されていない
といったことが分かり、大きなトラブルになったという例は珍しくありません。
遺産を特定する際には、次のような情報をできる限り正確に書くことが大切です。
- 不動産:登記事項全部証明書に記載された土地の「所在・地番・地目・地積」、建物の「家屋番号・種類・構造・床面積」など
- 預貯金:銀行名・支店名・口座種別・口座番号
- 株式・投資信託:証券会社名・銘柄名・保有数など
- 自動車:車検証に記載された内容(登録番号・車台番号など)
- 貴金属・美術品:誰が見ても判別できる程度の説明や購入証明書の有無
また、受取人についても、
・「長男」「次女」と続柄だけで書く
・名前の漢字が一字違う
など、あいまいな表現にすると、後で「この長男とは誰のことか」を巡って争いになることがあります。
面倒でも、「誰が読んでも同じ意味にしか取れない書き方」を意識することが、トラブル防止には欠かせません。
4. 相続人の氏名を誤記・家族状況の変化を放置
意外と多いのが、名前の表記ミスや、家族の状況が変わったのに見直しをしていないケースです。
例えば、次のようなパターンが考えられます。
- 結婚・離婚などで苗字が変わっているのに、旧姓のまま記載している
- 兄弟で同じ名前の人がおり、漢字が1字違うだけなのに区別なく書いている
- 「次男に相続させる」と書いたものの、その後に次男が先に亡くなってしまった
特に問題となるのは、遺言で財産を受け取るはずの人が先に亡くなっているケースです。代わりに誰が受け取るのか(予備的な受取人)を決めていないと、結果として法定相続分どおりの分け方に戻ってしまうことがあります。
遺言書は「書いた時点では正しかったけれど、時間が経つと状況が変わる」ことが非常によくあります。だからこそ、
・書きっぱなしにしない
・数年ごとに見直す
という姿勢がとても大切です。
5. 保管方法上の問題(見つからない・隠された・偽造された)
遺言書を書いた後の保管方法も、実はとても重要です。
自宅の引き出しや本棚にしまい込んでしまうと、次のようなリスクがあります。
- 誰にも気づかれず、存在しないものとして相続が進んでしまう
- 財産をもらえない人が見つけて、こっそり破棄してしまう
- 内容を書き換えられ、偽造を疑われて裁判になる
特に多いのは、「そもそも遺言書が見つからなかった」というケースです。遺言書がどれだけ立派な内容でも、誰にも見つけてもらえなければ意味がありません。
そこで近年注目されているのが、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」です。一定の手数料はかかりますが、
- 遺言書を法務局で保管してもらえる
- 相続人が後から「保管の有無」を公的に確認できる
- 改ざん・紛失・破棄のリスクがほぼない
といったメリットがあります。費用と安心感を比べると、利用を検討する価値は十分にある制度と言えるでしょう。
6. 自筆証書遺言は“素人の考え”で書くと危険
自筆証書遺言は、費用をあまりかけずに自分のペースで作れるという大きなメリットがあります。一方で、「無効」や「相続トラブルの火種」になりやすいという側面も見逃せません。
実際の相談現場では、次のような声があります。
- 「父が遺言書を残してくれたのに、相続が泥沼化してしまった」
- 「遺言書が無効になり、法定相続に戻って財産分けが混乱した」
- 「家を継ぐつもりだったのに、書き方のせいで他の相続人と争うことになった」
遺言は、人生の集大成であり、家族への最後のメッセージです。だからこそ、「とりあえず書けばいい」というものではなく、「確実に伝わる形」で残すことが何よりも大切です。
7. 専門家に相談するメリット
行政書士などの専門家に相談することで、次のようなサポートを受けることができます。
- 形式的な不備がないかのチェック(無効リスクの確認)
- 財産の洗い出し・特定方法のアドバイス
- 相続人同士が揉めないような分け方の設計
- 家族構成や健康状態の変化を踏まえた定期的な見直し提案
- ケースによっては公正証書遺言を選んだ方が良いかどうかの判断
「遺言は書いたら終わり」ではありません。大切なのは、「家族が幸せになること」をゴールに遺言の内容を組み立てていくことです。
8. まとめ:遺言は“書くこと”が目的ではなく、家族の未来を守るためのもの
最後にもう一度、自筆証書遺言でよくある5つのミスを振り返っておきましょう。
- パソコン・代筆・録音などで作成してしまう(全文は必ず本人の手書きで)
- 日付の誤りや記載不足(「吉日」などあいまいな表現は避ける)
- 財産・受取人の特定があいまい(誰が読んでも分かるレベルで具体的に)
- 氏名の誤記や家族状況の変化を放置(書きっぱなしにせず、定期的に見直す)
- 保管方法の問題(見つからない・隠される・改ざんされるリスクへの配慮)
遺言書がきちんと機能すれば、家族は安心して話し合いを進めることができ、遺産分割もスムーズに進みます。逆に、書き方を誤るだけで、「争いを生む原因」になってしまうこともあります。
もし今、
・「そろそろ遺言を作っておいた方が良いかもしれない」
・「自分で書いてみたけれど、この内容で本当に大丈夫か不安」
と感じておられるなら、ぜひ一度、専門家に相談してみてください。
相続は人生の最終章。遺言は家族への最後のプレゼントです。
その想いが確実に届くように、一緒に準備を進めていきましょう。
📝 自筆証書遺言の落とし穴クイズ 📝
【第1問】「手が震えて文字を書くのが辛い」という理由で、パソコンで遺言書の本文を作成し、署名と押印だけ自筆で行いました。この遺言書は法的に有効でしょうか?
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