行政書士として日々の業務にあたっていると、さまざまな「家族の風景」に出会います。
円満に財産を引き継ぎ、笑顔で新たな生活をスタートさせるご家族。一方で、たった一つのボタンの掛け違いから、長年の兄弟仲に修復不可能な亀裂が入ってしまうご家族。
その運命の分かれ道にあるのは、往々にして「遺言書があったか、なかったか」、そして「その遺言書が”使えるもの”だったか」という一点に尽きます。
今日は、一介の行政書士としての現場の肌感覚から、あえて本音をお話ししたいと思います。
遺言書にはいくつか種類がありますが、私は相談に来られたお客様には、ほぼ例外なく「公正証書遺言(こうせいしょうしょゆいごん)」をおすすめしています。
「先生、でもそれってお金がかかるんでしょう?」
「自分で書けばタダなのに、なんでわざわざ?」
そう仰るお気持ち、痛いほどよく分かります。しかし、それでもなお、私が「プロの手を借りて、公証役場で作る」ことを推すのには、決して無視できない「確実性」という大きな理由があるのです。
少し長くなりますが、将来の安心のための「読み物」として、お付き合いいただければ幸いです。
1. そもそも遺言書は「大金持ち」だけのものではない
まず、本題に入る前に一つだけ誤解を解かせてください。
「ウチには遺言を書くほどの財産なんてないよ」
そう笑って仰る方が本当に多いのですが、実はこれこそが一番の落とし穴です。
裁判所の司法統計などを見ると、遺産分割事件(相続争い)で裁判沙汰になっているケースの約75%は、遺産総額が5000万円以下の「ごく一般的なご家庭」で起きています。さらに言えば、そのうちの相当数は1000万円以下です。
大豪邸や莫大な株式があるわけではない。あるのは、親が住んでいた実家と、少々の預貯金だけ。
実は、この「分けにくい不動産」と「わずかな現金」という組み合わせこそが、相続トラブルの火種として最も着火しやすいのです。
- 「誰が実家を継ぐのか?」
- 「実家を売ってお金に換えるとしても、誰が主導するのか?」
- 「兄貴は大学まで出してもらったけど、私は高卒で働いて家にお金を入れていた。同じ金額で分けるのは不公平だ」
一度火がついた感情は、法律論だけでは鎮火できません。
だからこそ、財産の多寡にかかわらず、「親としての最後の意思(誰にどう分けてほしいか)」を明確に残しておくこと。これが、残された家族への最大の優しさになります。
2. 「自筆証書遺言」の手軽さに潜む、恐ろしいリスク
遺言書を残そうと思い立った時、一番手軽なのは「自筆証書遺言」です。
紙とペン、そして印鑑があれば、今すぐにでも書くことができます。費用もかかりません。2020年の法改正で、財産目録はパソコン作成が可能になるなど、以前より要件も緩和されました。
「じゃあ、それでいいじゃないか」と思われるかもしれません。
しかし、私たち専門家が「自筆」をあまり推奨しないのには、現場で見てきた「失敗事例」の多さがあるからです。
形式不備で「ただの紙切れ」になる無念
自筆証書遺言は、法律で定められた厳格なルールがあります。日付の書き方、署名、押印、訂正の方法……。これらが一つでも間違っていると、どんなに素晴らしい内容が書かれていても、法的には無効になります。
「令和○年○月吉日」と書いて無効になった例や、加筆訂正の仕方を間違えて無効になった例など、枚挙にいとまがありません。亡くなった後では、書き直しはできないのです。
「検認」という手続きの煩わしさ
自筆の遺言書が見つかった場合、勝手に開封してはいけません。家庭裁判所に持って行き、相続人全員に通知を出した上で、立ち会いのもとで開封する「検認(けんにん)」という手続きを経なければなりません。
これには数ヶ月の時間がかかりますし、書類集めも大変です。何より、この検認の場に、疎遠だった親族や仲の悪い兄弟を呼び寄せなければならないという心理的ストレスは相当なものです。
紛失・改ざん・隠匿のリスク
タンスの奥にしまっておいた遺言書を、自分に都合の悪い内容だと知った親族が見つけたらどうするでしょうか?
捨ててしまうかもしれませんし、書き換えてしまうかもしれません。あるいは、誰にも発見されずにそのまま……ということもあり得ます。
3. 公正証書遺言が持つ、圧倒的な「証拠力」と「安心感」
そこで登場するのが、私が強くおすすめする「公正証書遺言」です。
これは、公証人(元裁判官や元検察官などの法律のプロ)が、遺言者の意思を確認しながら作成する公文書です。
なぜ、費用をかけてまでこれを作るべきなのか。そのメリットは「確実性」の一言に尽きます。
✅ 公正証書遺言の3つのメリット
1. プロが作るから「無効」にならない
公証人は法律の専門家です。さらに、私のような行政書士が事前に詳細な原案を作成し、公証人と打ち合わせを重ねてから当日を迎えます。
つまり、形式不備で無効になることはほぼ100%ありません。
「せっかく書いたのに無効だった」という最悪の事態を確実に防げる。これだけでも、費用を払う価値は十分にあります。
2. 偽造・紛失の心配がゼロ
作成された公正証書遺言の原本は、公証役場という金庫の中で厳重に保管されます。
手元には「正本」や「謄本(写し)」が渡されますが、もしこれを無くしても、役場に行けば再発行してもらえます。
東日本大震災の際も、原本が公証役場に保管されていたおかげで、スムーズに相続手続きができたという事例が数多くありました。
3. 面倒な「検認」が不要で、すぐに手続きへ
これが実務的には非常に大きなメリットです。
公正証書遺言があれば、家庭裁判所での「検認」手続きは不要です。
亡くなられた直後、悲しみの中で銀行の凍結解除や不動産の名義変更を行わなければなりませんが、公正証書遺言があれば、それ一枚で即座に手続きに入れます。
残されたご家族の負担(時間的・精神的・金銭的)を劇的に減らすことができるのです。
4. 気になる「費用」と、それを上回る「コストパフォーマンス」
さて、皆さんが一番気にされる費用の話も正直にお伝えしましょう。
公正証書遺言を作成する場合、大きく分けて2つの費用がかかります。
- 公証役場に支払う手数料(法定の費用)
- 行政書士への報酬(文案作成や証人手配、公証人との調整料)
公証役場の手数料は、財産の額や相続人の数によって変わりますが、一般的なご家庭(財産3000万〜5000万円程度)であれば、数万円程度です。
行政書士への報酬を含めると、トータルで十数万円〜二十万円程度の出費になることが多いでしょう。
「やっぱり高いな……」
そう思われるかもしれません。今の生活の中で十数万円を捻出するのは、決して小さなことではありません。
しかし、こう考えてみてください。
もし、遺言書がなかったために、あるいはお手製の遺言書が無効だったために、兄弟間で争いが起きたらどうなるか。
弁護士を雇って遺産分割調停や裁判になれば、着手金だけで数十万円、解決までの報酬を含めれば百万円単位のお金が飛んでいきます。そして何より、解決までに何年もの歳月と、すり減るような精神的ストレスがかかります。
「将来の数百万円の損失と、家族の絆の崩壊を防ぐための保険料」として、今の十数万円が高いか、安いか。
実務家として多くの「揉めた案件」を見ているからこそ、私は自信を持って「公正証書遺言は、間違いなくコスパが良い」と断言できます。
5. 公証役場は怖くない!行政書士が「翻訳者」になります
「でも、公証役場なんて行ったことないし、元裁判官の先生と話すなんて緊張する」
そのような不安を持たれる方もいらっしゃいます。
ご安心ください。私たち行政書士は、そのために存在しています。
公証人との難しい法律用語でのやり取りや、書類の準備、スケジュールの調整は、すべて私たちが代行します。
お客様にしていただくのは、
「誰に、何を、どのくらい渡したいか」
「なぜ、そうしたいのか」
という、素直な想いを私にお話しいただくだけです。
私はその想いを、法的に間違いのない文章(法律用語)に「翻訳」し、公証人に伝えます。
そして作成当日も、私たちが「証人」として同席し、リラックスした雰囲気の中で手続きが進むようサポートします。
実際、作成を終えたお客様の多くは、「もっと堅苦しい取り調べみたいなものかと思っていたけど、世間話をしている間に終わってしまった」と安堵の表情を浮かべられます。
6. 認知症リスクへの備えとしても有効
もう一つ、公正証書をおすすめする現代的な理由があります。それは「判断能力」の証明です。
高齢になってから遺言を書くと、後になって「親父はあの時すでにボケていた。この遺言は無理やり書かされたものだ!」と無効を主張されるトラブルが増えています。
自筆証書の場合、その時の本人の判断能力を客観的に証明するのは困難です。
しかし、公正証書遺言であれば、公証人という法律のプロが面談し、「この方には正常な判断能力がある」と確認した上で作成します。
この事実は、後々の裁判等において非常に強力な証拠となります。
「遺言能力があったかどうか」という不毛な争いを未然に防ぐという意味でも、公正証書遺言の信頼性は圧倒的なのです。
7. 遺言は、家族への最後の「ラブレター」
少しドライな法律やお金の話をしてきましたが、最後に一番大切なことをお伝えしたいと思います。
遺言書には、「付言事項(ふげんじこう)」という欄を設けることができます。
ここには、法的な効力はありませんが、家族へのメッセージを自由に書くことができます。
「長男は家を継いでくれるから不動産を。次男は遠方で家を持ったから現金を。不公平に見えるかもしれないが、父さんなりに悩んで決めたことだ」
「お母さん、長い間苦労をかけたね。ありがとう」
「兄弟仲良く、助け合って生きていってほしい」
公正証書遺言の中に、こうした温かい言葉が添えられているのを読み上げる時、公証役場の空気がふっと緩み、涙ぐまれるご家族を何度も見てきました。
しっかりとした法的な効力(土台)の上に、家族への感謝の想い(心)を乗せる。
これこそが、公正証書遺言の本当の完成形だと私は思っています。
8. まずは「想い」を言葉にすることから始めませんか?
公正証書遺言は、費用も手間もかかりますが、それに見合うだけの「絶対的な安心」と「家族への愛」を形にできる最強のツールです。
「まだ早いかな?」と思っている今こそが、実はベストなタイミングです。
判断能力が落ちてしまってからでは、もう作ることはできません。
行政書士は、街の法律家です。
いきなり「依頼します!」と意気込まなくても大丈夫です。「ちょっと話を聞いてみたい」「自分の家の場合、いくらくらいかかるの?」といった雑談レベルのご相談からで構いません。
あなたの「家族を想う気持ち」を、確実な形にするお手伝いをさせていただければ、これに勝る喜びはありません。
お茶を飲むような感覚で、弊所のドアを叩いてみてください。お待ちしております。
📝 家族を守る「遺言」基礎知識クイズ 📝
【第1問】「ウチには遺言を書くほどの財産なんてない」と思っていませんか?裁判所の統計によると、遺産分割で揉めて裁判になるケースの約75%は、遺産総額がいくら以下のご家庭でしょうか?
【事務所概要】
行政書士やまだ法務事務所
代表者:山田 勉
所在地:奈良県生駒郡平群町光ヶ丘1丁目3番5号 (ご来所は、全予約制です。)
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