行政書士として遺言書の作成支援に携わっていると、法律がいかに「冷徹」であるかを感じることがあります。
もちろん、法律は公平性を保つために必要なルールです。しかし、人の感情というのは、法律の条文通りに割り切れるものではありません。
特に「相続」の場面では、少しの感情のすれ違いが、修復不可能な亀裂を生んでしまうことがあります。
「なぜ兄さんばかり多くもらうんだ」
「私は介護までしたのに、これだけなの?」
こうしたトラブルを未然に防ぐために、遺言書には**「付言事項(ふげんじこう)」**という項目があることをご存じでしょうか。
これは、法的な効力(強制力)は一切ありません。
しかし私は、行政書士としてお客様に遺言書のご提案をする際、この「付言事項」こそが、実は遺言書の中で最も重要な部分ではないかとさえ考えています。
今回は、教科書的な法律論だけでなく、なぜ私がそこまで「付言事項」を重要視するのか、その理由と活用法についてお話ししたいと思います。
1. 遺言書は、感情のない「命令書」になりがち
まず、一般的な遺言書の形式を見てみましょう。
法律的に有効な遺言書を作ろうとすると、どうしても以下のような無機質な文章になります。
『第1条 遺言者は、所有する不動産全てを長男〇〇に相続させる』
『第2条 遺言者は、預貯金の全てを長女△△に相続させる』
これを見て、ご家族はどう感じるでしょうか。
もし、家族全員が納得している状況なら問題ありません。しかし、もし長男と長女の仲があまり良くなかったり、分け方に偏りがあったりした場合、この文面は非常に冷たく映ります。
「親父は勝手に決めた」
「まるで業務命令だ」
そこに「故人の想い」が見えないため、残された家族は自分に都合の良いように解釈し、疑心暗鬼に陥ってしまうのです。
法律用語だけで書かれた遺言書は、権利を移転させることはできても、家族の心を納得させる機能は持っていないのです。
2. 「付言事項」とは何か?
そこで活用したいのが「付言事項」です。
これは、遺言書の本文(誰に何をあげるか)の後に付け加える、追伸のようなメッセージ欄です。
ℹ️ 付言事項の特徴
- 法的効力はない:ここに書かれた内容に従わなくても、法的なペナルティはありません。
- 形式は自由:法律用語を使う必要はなく、手紙のような口調で書くことができます。
- 何を書いてもいい:分配の理由、家族への感謝、葬儀の希望など、自由に想いを綴れます。
「法的な効力がないなら、書いても意味がないのでは?」
そう思われるかもしれません。私も法律を学び始めた頃はそう思っていました。
しかし、実務の世界や多くの事例を研究すればするほど、この「効力のない言葉」が持つ力の大きさに気付かされます。
3. なぜ「付言」が争いを止めるのか
相続争いの多くは、お金の問題であると同時に、「感情の問題」です。
「自分は愛されていなかったのではないか」「不公平だ」という感情のもつれが、裁判沙汰にまで発展するケースが後を絶ちません。
ここに、故人からの「生の声」があったらどうでしょうか。
不平等の理由を説明する
例えば、「長男に不動産を、次男には現金を」と分けた場合、もし不動産の価値の方が高ければ、次男は不満を持つかもしれません。
しかし、付言事項にこうあったらどうでしょう。
次男へ。
兄さんには家を継いでもらうため、不動産を残すことにした。金額で見れば兄さんの方が多く見えるかもしれないが、古い家の維持管理や、先祖の供養を任せることになるからだ。
お前には自由に使ってほしいと思って現金を残した。どうか父の意図を汲んで、兄弟仲良く助け合ってほしい。
このように「なぜそうしたのか」という理由がご本人の言葉で語られていれば、多くの相続人は「親父がそう考えたのなら仕方がない」と矛を収めます。
裁判所で争うよりも、亡くなった親の最後の言葉を尊重したいと思うのが、多くの人の心情だからです。
4. 感謝の言葉は、法的効力以上の価値がある
付言事項に書くべきことは、財産分けの言い訳だけではありません。
私が最もおすすめしたいのは、「家族への感謝」を記すことです。
遺言書は、ご本人が亡くなった後に開封されます。
つまり、付言事項は「家族が受け取る、あなたからの最後の手紙」になります。
- 「お母さん、長い間支えてくれてありがとう」
- 「子供たちが立派に育ってくれたことが、人生一番の誇りだ」
- 「口うるさい父親だったかもしれないが、お前たちの幸せをいつも願っていた」
こうした言葉が一つあるだけで、残されたご家族の悲しみは癒やされ、温かい気持ちで相続手続きに向き合うことができます。
「手続きのための書類」が、「宝物の手紙」に変わる瞬間です。
公証役場で作成される公正証書遺言であっても、付言事項を入れることができます。
無味乾燥な公正証書の末尾に、ご本人らしい温かい言葉が添えられているのを見ると、私たち専門家も胸が熱くなるものです。
5. 何を書くべきか?(構成のヒント)
「いざ書こうと思うと、何を書けばいいのか分からない」
そのような方のために、一般的な構成案をいくつかご紹介します。
① 分配の理由(特に差がある場合)
特定の子供に多く渡す場合や、遺留分(最低限の取り分)を侵害するような内容の場合は、その理由を丁寧に説明することで、トラブルのリスクを下げることができます。
② 家族への感謝・ねぎらい
配偶者への感謝、子供たちへの愛情。普段は照れくさくて言えないことも、最後の手紙としてなら書けるはずです。
③ 死後の事務についての希望
「葬儀は家族だけで質素に行ってほしい」「散骨をしてほしい」といった希望も書くことができます。法的拘束力はありませんが、残された家族が「どうしよう?」と迷った時の大きな指針になります。
6. 書いてはいけない「ネガティブな言葉」
逆に、注意していただきたい点もあります。
それは、不満や恨み言を書かないということです。
「長男の嫁は一度も顔を見せなかった」
「次男は親の期待を裏切った」
時折、これまでの鬱憤を晴らすかのように批判的な内容を残そうとするケースが見受けられます。
しかし、遺言書は永久に残るものです。最後に残された言葉が誰かを傷つけるものであれば、それは確実に「遺恨」となり、数世代にわたって親族間の不和を招きかねません。
立つ鳥跡を濁さず。最後は「許し」と「感謝」で締めくくることが、ご自身の尊厳を守ることにもつながります。
7. 行政書士と一緒に「想い」を形にしませんか
遺言書というと、どうしても「財産目録」や「形式の不備」といった法律的な側面に目が行きがちです。
もちろん、形式が整っていなければ無効になってしまいますから、そこは私たちプロが責任を持ってチェックいたします。
しかし、私が行政書士として大切にしたいのは、形式の奥にある「あなたの想い」です。
「文章を書くのが苦手だ」
「自分の気持ちをどう表現していいか分からない」
そのような場合でも、ご安心ください。
私がじっくりとお話をお伺いし、あなたの想いを汲み取って、ふさわしい言葉にするお手伝いをさせていただきます。
私は、お一人お一人のお客様の話に時間をかけ、丁寧に耳を傾けます。
「法律家」というよりも、「あなたの想いの代筆者」として、頼っていただければ幸いです。
遺言書は、残りの人生を安心して過ごすための「お守り」です。
あなたの人生の物語を伺えることを、心よりお待ちしております。
✉️ 家族の絆を守る「付言事項」クイズ ✉️
遺言書に添える「付言事項(ふげんじこう)」の法的な効力について、正しい説明はどれでしょうか?
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行政書士やまだ法務事務所
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