相続が始まると、ご親族の中には
「自分がすべて相続する」
「遺産は一切渡さない」
などと主張し、遺産を独り占めしようとする方が現れることがあります。
大切なご家族を亡くされた直後に、このような問題に直面すると、大きな精神的負担を感じる方も少なくありません。しかし、日本の相続制度では、一人の相続人が他の相続人の権利を一方的に奪うことは容易ではありません。
この記事では、遺産を独り占めしようとする相続人がいる場合の対処法について、行政書士の視点から分かりやすく解説します。
1. まずは冷静に対応することが大切
遺産を独占しようとする相続人がいたとしても、法律上、他の相続人の権利を自由に奪えるわけではありません。
預貯金の解約や不動産の相続登記を行うためには、原則として、法定相続人全員の同意に基づく「遺産分割協議書」や必要書類が求められます(有効な遺言書がある場合などを除きます)。
もっとも、被相続人の通帳やキャッシュカードを管理していた相続人が預金を引き出してしまうケースなどもあるため、気になる事情がある場合には、早めに財産状況を確認することが重要です。
感情的になってしまうと、かえって話し合いが難しくなることがあります。まずは冷静に状況を整理し、相手のペースに巻き込まれないようにしましょう。
2. まずは相続財産の全体像を把握する
遺産を独り占めしようとする相続人がいる場合、遺産の内容を隠される可能性があります。適切な遺産分割を行うためには、まず相続財産を正確に把握することが重要です。
相続人は、単独で金融機関に対し、残高証明書や取引履歴などの開示を求めることができます。これにより、以下の点を確認できる場合があります。
- 預貯金残高
- 生前や死亡直前の不自然な出金の有無
また、不動産については、市区町村で「名寄帳(なよせちょう)」を取得することで、その自治体内に所在する不動産を把握できる場合があります。
財産調査をご自身で行うことが難しい場合には、戸籍収集や財産目録の作成について、行政書士などの専門家へ相談することも有効です。
3. 遺言書があっても「遺留分」を請求できる場合がある
「全財産を長男に相続させる」
などと記載された有効な遺言書が見つかった場合、原則として遺言内容が優先されます。
しかし、配偶者、子、直系尊属(父母など)には、法律上保障された最低限の取り分である「遺留分(いりゅうぶん)」があります。
※兄弟姉妹には遺留分はありません。
遺留分を侵害されている場合には、「遺留分侵害額請求」を行うことで、侵害された相当額の金銭を請求できる可能性があります。なお、この請求権は、以下の期間で時効により消滅するため、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
- 相続開始および遺留分侵害を知った時から1年間
- 相続開始から10年間
4. 生前贈与を受けていた場合は「特別受益」になることも
遺言書がない場合でも、
「長男だから全部相続するべきだ」
と主張して話し合いに応じないケースがあります。
もし、その相続人が被相続人から住宅購入資金や事業資金など多額の贈与を受けていた場合には、「特別受益(とくべつじゅえき)」として考慮される可能性があります。
特別受益が認められると、生前に受け取った利益を考慮して各相続人の取得割合を計算します。ただし、すべての生前贈与が特別受益になるわけではなく、個別事情によって判断が分かれるため注意が必要です。
5. 話し合いがまとまらない場合は家庭裁判所へ
遺産分割協議は、相続人全員の合意が必要です。そのため、一人でも協議に応じない相続人がいる場合、協議は成立しません。
当事者間での話し合いが難しい場合には、家庭裁判所へ「遺産分割調停」を申し立てることになります。調停では、調停委員が双方の話を聞きながら合意形成を目指します。
調停でも解決しない場合には、自動的に審判手続へ移行し、最終的には裁判官が分割方法を決定します。
6. 行政書士と弁護士、それぞれの役割
行政書士は、以下の業務を通じて相続手続全般をサポートすることができます。
- 相続人調査(戸籍収集)
- 相続関係説明図の作成
- 財産目録の作成
- 遺産分割協議書の作成
一方、相続人同士で意見が対立している場合、行政書士が特定の相続人の代理人として交渉したり、調停や審判を代理したりすることはできません。すでに紛争状態となっている場合には、早い段階で弁護士へ相談することが重要です。
反対に、
「まずは財産を調査したい」
「相続手続を進めるための書類を整えたい」
という段階であれば、行政書士がサポートできる場面は少なくありません。
7. まとめ
遺産を独り占めしようとする相続人がいる場合でも、日本の法律には相続人間の公平を図るための仕組みが整えられています。
大切なのは、感情的にならず、以下の順序で冷静に対応することです。
- 財産を調査する
- 権利関係を確認する
- 必要に応じて専門家へ相談する
一人で悩みを抱え込まず、状況に応じて行政書士や弁護士などの専門家を活用しながら、適切に相続手続きを進めていきましょう。
※本記事の内容は、執筆時点の法令・情報に基づき一般的な解説を提供するものであり、特定の事案についての助言・判断を目的としたものではありません。実際の手続きや対応方法は、状況・地域・関係機関・契約内容等によって大きく異なります。そのため、本記事のみを根拠として判断・行動されることはお控えいただき、個別の事情に応じた専門家への相談をおすすめいたします。本記事の内容に基づき生じたトラブル・損害等について、当事務所は一切の責任を負いかねますのでご了承ください。⚖️ 遺産相続のトラブル対策クイズ ⚖️
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