「遺言書なんて、自分にはまだまだ早い」「書くなら、元気なうちにゆっくり考えればいい」と多くの方が、そう考えているではないでしょうか。
しかし、人生はいつもいつも穏やかとは限りません。
火事、事故、遭難、隔離、戦地。
もし“その瞬間”が突然やってきたら、あなたはどんな形で自分の思いを残すでしょうか?
実は、日本の民法には、「非常時だけ使える特殊な遺言」がいくつか用意されています。
普段はほぼ誰も使わないものの、「へぇ、そんな世界があるのか!」と驚かれる方も多いでしょう。
今回は、特別な法律の話を、読み物として気軽に楽しんでいただけるようにご紹介します。
1. 普段は存在すら知らない“特別方式遺言”とは?
私たちがよく耳にする遺言は「自筆証書遺言」や「公正証書遺言」。 しかし民法の奥深くには、“特別方式遺言”というカテゴリーが存在します。
これは簡単に言えば、 「通常の方法で遺言書を作る余裕がない大ピンチのときにだけ許された特別ルール」。
今の日本で実際に使われることはほとんどありません。 行政書士としての実務でも、一生見ることがない可能性すらあります。
それでも制度が残っているのは、おそらく「どんな状況でも人の意思を尊重したい」という、法律の深い思想からかも知れません。
2. 映画のワンシーンのような“危急時遺言”
映画やドラマでよくある場面です。
主人公が事故で重傷を負い、医者が到着する前に、家族や友人に「これを伝えてほしい」と言い残す。
現実では「そんなの遺言として成立しないでしょ?」と思うかもしれませんが、 実は民法には「危急時遺言」という制度があります。
これは、“死が目前に迫り、通常の遺言ができない状況”で認められる特別な遺言。
例えば、 ・突然の病気で意識が遠のき始めている。・事故で医療機関に搬送される途中。・余命が数時間と言われた などのイメージです。
証人3人がその場で立ち会い、本人の意思を聞き取って文書にします。 その後、家庭裁判所の確認が必要など、決して簡単ではありませんが、
「人の最期の言葉を可能な限り形にする」そんな法律です。
3. 船が沈むときだけ使える遺言?「難船迫りてする遺言」の世界
これを初めて聞いた多くの方が「映画の世界の話ですか?」と驚かれます。
民法にはなんと、「船が沈みかけて乗客の命が危険にさらされているとき」に使える遺言が規定されています。 それが「難船迫りてする遺言」。正式には船舶遭難者の遺言(または難船危急時遺言)
法律はこうした極限状況にも備えているのです。
この遺言のポイントは、船長の役割。 生命の危険が迫る中、船長が乗客の意思を聞き取り、立ち会って記録します。
現代ではまず利用されませんが、「船旅が命がけだった時代の名残」として残されており、法律の奥深さを感じる制度です。
4. 感染症で隔離されたときにも遺言ができる
コロナ禍を経験した今、少し身近に感じるかもしれない制度がある。それが「伝染病隔離者遺言」です。
名前の通り、伝染病で隔離されてしまい、家族にも会えない状況で使える遺言です。 明治~大正時代のコレラ対策が背景にあると言われています。
もちろん現代では医療体制が整い、隔離されてもすぐに連絡手段が確保されますから、実際に使う人はほぼいません。
ですが、制度が廃止されず残っており、 「隔離されて家族と会えなくても、最後の意思は尊重したい」そんな想いの名残でしょう。
5. 戦地にいる兵士のための遺言
特別方式遺言には、軍隊に関するものもあります。 今の日本では使われることはありませんが、戦前・戦中の名残です。
戦地に送り出された兵士は、家族に十分な言葉を残すことができないまま戦っていました。 そこで、死亡の危険が高い任務中でも、部隊の上官が立ち会って遺言ができるようにしたものが「一般危急時遺言」。
こうした制度を見ると、 「どんな状況でも、人の最後の意思を残してあげたい」 という法律の優しさのようなものを感じます。
実務ではまずお目にかかりませんが、興味深い制度です。
6. 現代で特殊な遺言が使われるケースはほぼゼロ
ここまで読み進めて、こう思われたかもしれません。 「面白いけど、現代で本当に使う人なんているの?」
結論はほぼいません。 公証役場は全国どこにでもあり、自筆証書遺言は法務局に預けられる時代です。 わざわざ危険な状況で特別方式を使う必要はほとんどないのです。
しかし、「万が一に備えてここまで整備されている」ということを知ると、 遺言制度への親しみやすさが少し増えるように感じます。
7. 特殊な遺言を知ると、“元気なうちに作る遺言”の大切さが見えてくる
特別方式遺言の面白さは、「人がどんな状況に置かれても、意思を残す手段がある」ということ。 しかし同時に、「そんな極限状態で遺言を作らないといけないのは大変すぎる」という現実もあります。
だからこそ、 「元気なうちに、落ち着いて遺言を作ること」 の価値がよく分かります。
非常時の制度を知ると、普通の遺言のありがたさが逆に浮き彫りになります。 家族にとっても、本人にとっても、安心につながる大切な作業です。
※この記事は読み物として作成したもので、実務利用を目的としたものではありません。
現実の遺言作成については、通常の方法をおすすめします。
📝 特殊な遺言方式に関するクイズ 📝
父が突然の病で重体となり、通常の遺言書を作る余裕がない状況で、口頭で遺言をしました。このような「死が目前に迫った状況」で認められる特別な遺言方式は何と呼ばれますか?
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