亡くなった親の郵便物や契約書、“勝手に開けてもいい?”

意外な落とし穴と正しい対処法

親御様が亡くなられた後、悲しむ間もなく押し寄せてくるのが「遺品整理」や「事務手続き」です。
その中で、意外と多くの方が直面し、悩み、そして時には取り返しのつかない失敗をしてしまうのが「届いた郵便物や書類の扱い」です。

役所からの通知、金融機関からの封書、あるいは見知らぬ会社からの請求書……。
「中身を確認しないと手続きが進まない」と思う一方で、「勝手に開けてしまって法的に問題はないのか?」と不安になる方も少なくありません。

今回は、亡くなった親御様の郵便物を扱う際の法的な注意点と、トラブルを避けるための実践的な対処法を分かりやすく解説します。


1. なぜ「郵便物の開封」が問題になりやすいのか?

人が亡くなった後も、契約関係がすぐに消滅するわけではありません。
公共料金の請求書、固定資産税の通知書、クレジットカードの利用明細などは、相続開始後も次々と自宅に届きます。

これらを確認しなければ、遺産の全体像や借金の有無(債務調査)が分からず、相続手続きを進めることはできません。

一方で、郵便物の取り扱いには、次の2つの法的な注意点があります。

  • 刑法上の問題(信書開封罪・プライバシーへの配慮)
  • 民法上の問題(相続の単純承認=借金も含めて引き継いだとみなされるリスク)

特に後者は、後から取り返しがつかなくなるため、十分な注意が必要です。


2. 家族でも問題になる?「信書開封罪」の基本

刑法133条には、いわゆる「信書開封罪」が規定されています。
正当な理由なく、他人の信書(封をしてある手紙や請求書など)を開封した場合に成立し得る犯罪です。

「家族なのだから問題ない」と思われがちですが、法律上は、親子であっても原則として別人格です。

もっとも、相続開始後、相続人が相続財産や債務を調査する目的で郵便物を開封する行為は、実務上『正当な理由がある』と評価されるのが通常です。
そのため、相続人が調査目的で開封したこと自体が、信書開封罪として問題になる可能性は極めて低いとされています。

ただし、次のような状況ではトラブルの火種になりやすいため注意が必要です。

  • 相続人同士の関係が悪い
  • 疎遠な兄弟姉妹がいる
  • 後の遺産分割協議で対立が予想される

「勝手に開封して情報を独占した」「都合の悪い書類を隠したのではないか」と疑念を持たれないよう、開封の目的と経緯を明確にしておくことが重要です。


3. 最大の落とし穴は「単純承認」になること

そして、最も注意を促したいのが、民法上の「法定単純承認」のリスクです。

単純承認とは、簡単に言えば
「亡くなった人の財産も借金も、すべて引き継ぐと認めた扱いになること」です。

相続財産を処分したり、債務を遺産から支払ったりすると、相続放棄ができなくなる場合があります。

郵便物の開封そのものは、相続財産の保存行為や調査行為にあたり、原則として単純承認には該当しません
問題になるのは、開封した後の行動です。

典型的な危険例

  • クレジットカードの請求書を確認
  • 「少額だから」と、故人の現金で支払ってしまう

このような行為は、相続財産を使って債務を弁済した=遺産を処分したと評価されるおそれがあり、その後に多額の借金が見つかっても相続放棄ができなくなる可能性があります。


4. 請求書が出てきたとき、避けるべき行動

郵便物から請求書や督促状が出てくると、慌てて対応してしまいがちです。
しかし、次の行為はリスクが高いため、慎重になる必要があります。

  • 故人の預金口座から引き出して支払う
    凍結前後を問わず、単純承認と判断される可能性があります。
  • 故人の財布やタンス預金から支払う
    金額の大小に関係なく、後で使途不明金として問題化しやすい行為です。
  • 業者に「自分が支払います」と安易に伝える
    内容確認だけであれば問題ありませんが、支払意思を明確に示すと、相続債務を承認したと評価されるおそれがあります。

支払いがどうしても必要な場合は、一旦自分の資金で立て替え、必ず領収書を保管するか、事前に専門家へ相談することが重要です。


5. 郵便物を安全に管理するための実践ステップ

ステップ①:開封前に共有する

他の相続人がいる場合は、
「◯月◯日、〇〇からの郵便物を、相続財産調査のために開封します」
と、LINEやメールで一言伝えておくだけでも、後のトラブルを防げます。

ステップ②:リスト化する

郵便物は、次の項目で一覧にしておくと整理が進みます。

  • 到着日
  • 差出人
  • 内容
  • 金額
  • 対応状況

ステップ③:重要書類と判断不能なものは保管

明らかなDMは処分して構いませんが、
契約更新通知や金融・保険関係の案内が紛れていることもあります。
判断に迷うものは、すべて一時保管が安全です。


6. 紙が届かない時代の注意点(WEB明細)

最近は、請求や契約情報がすべてWEB明細というケースも増えています。
故人のスマホやパソコンが開けず、内容が分からないまま時間が経過することも珍しくありません。

無理にパスワードを解除しようとせず、

  • 通帳の引き落とし履歴
  • 紙で届くカード明細

など、目に見える資料から契約関係を推測することが、確実で安全な方法です。


7. 迷ったら「開封後の状態」で相談してよい

「開封したが、どう対応してよいか分からない」
その段階で、行政書士などの専門家に相談して問題ありません。

実務上は、未開封のままよりも、開封して差出人ごとに整理されている方が、調査はスムーズに進みます

恐れるべきは開封そのものではなく、
内容を十分理解しないまま、自己判断で財産を動かしてしまうことです。


まとめ

  • 相続財産調査のための郵便物開封は、原則として問題になりにくい
  • 請求書が出てきても、遺産から安易に支払わない
  • 判断に迷う書類は捨てずに保管する

遺品整理で出てくる書類の山は、親御様が生きてこられた証でもあります。
一つひとつ丁寧に整理することで、円満な相続への道筋が見えてきます。
もし不安や迷いがあれば、専門家と一緒に整理していくことも選択肢の一つです。

※本記事の内容は、執筆時点の法令・情報に基づき一般的な解説を提供するものであり、特定の事案についての助言・判断を目的としたものではありません。実際の手続きや対応方法は、状況・地域・関係機関・契約内容等によって大きく異なります。そのため、本記事のみを根拠として判断・行動されることはお控えいただき、個別の事情に応じた専門家への相談をおすすめいたします。本記事の内容に基づき生じたトラブル・損害等について、当事務所は一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

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亡くなった親宛の封書を、相続人が調査目的で開封することは法的にどう判断されますか?

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