【民法基礎】「もらえる」のか「なくなる」のか?停止条件と解除条件の違いをスイッチのイメージで理解しましょう。
行政書士試験の勉強を始めたばかりの方や、ご自身で契約書を作ろうとされている方から、よくこのようなご質問をいただきます。
「先生、『停止条件』と『解除条件』の違いがどうしても覚えられません。どっちがどっちでしたっけ?」
おっしゃる通りです。この二つの用語、漢字のイメージだけで捉えようとすると、どうしても混乱してしまいます。特に「停止」という言葉が曲者で、「何かが止まる(終わる)」ような印象を与えてしまい、逆の意味で覚えてしまいがちです。
しかし、この二つは契約の効力が「いつ発生し、いつ消滅するか」を決める、非常に重要なルールです。ここを間違えると、契約書の内容が意図とは真逆になってしまう恐れすらあります。
今回は、私たち行政書士が実務で契約書を作成する際にも常に意識している「停止条件」と「解除条件」の違いについて、法律初学者の方にも分かりやすく、「スイッチ」の例えを使って解説します。
1. そもそも「条件」とはスイッチのことである
まず、法律用語としての「条件」とは何かを整理しましょう。
民法において条件とは、「将来発生するかどうか不確実な事実」に契約の効力をかからせることを指します。
もっと平たく言えば、契約という電気回路に組み込まれた「スイッチ」のようなものです。
契約書にハンコを押した時点では、まだ電気が流れていない(効力が発生していない)、あるいは流れている電気が止まるかもしれない。その切り替えを行うトリガーが「条件」です。
ここでのポイントは「不確実」であることです。「来年の1月1日になったら」というのは、必ずその日は来るので「期限」と呼び、条件とは区別します。「もし試験に合格したら」「もし転勤が決まったら」といった、イエスかノーか分からないものが条件です。
2. 停止条件は「ONにする」スイッチ
一つ目の「停止条件」から見ていきましょう。これが一番誤解を招きやすい用語です。
「停止」という言葉を聞くと、何かがストップするように感じますよね。しかし、民法では「効力の発生を停止させておき、条件が成就したらスタートさせる」という意味で使われます。
つまり、「ONにするスイッチ」です。
具体例:合格祝いの約束
一番わかりやすい例がこれです。
親が子に、「行政書士試験に合格したら、開業資金として100万円を贈与する」と約束したとします。
- 契約時: まだ100万円はもらえません(効力が停止している状態)。
- 条件成就(合格): 100万円をもらう権利が発生する(スイッチON)。
契約を結んだ時点では、効力は「停止」状態にあります。条件(合格)という事実が発生して初めて、停止が解かれて動き出す。これが停止条件です。
実務的には、農地の売買契約などでよく使われます。「農業委員会の許可が得られたら、売買の効力が生じる(所有権が移転する)」といった形です。許可が出るまでは、契約書があっても所有権は移ったことになりません。
3. 解除条件は「OFFにする」スイッチ
次に「解除条件」です。こちらは漢字のイメージ通りで理解しやすいはずです。
契約の効力はすでに発生しているけれど、条件が成就したら「効力が消滅して、白紙に戻る」ものです。
つまり、「OFFにするスイッチ」です。
具体例:毎月の仕送り
例えば、「就職が決まるまでの間、毎月5万円の生活費を仕送りする」という約束をしたとします。
- 契約時: すぐに毎月5万円をもらえます(効力は発生済み)。
- 条件成就(就職): 仕送りがストップする(スイッチOFF)。
条件(就職)が満たされると、それまで続いていた「もらえる」という契約の効力が解除されます。
4. なぜ混乱するのか?「停止」の語源的イメージを捨てる
初学者が混乱する最大の原因は、「停止=Stop」という日常用語の感覚です。
ここで一度、頭の中のイメージを書き換えてみてください。
【イメージ書き換え】
- 停止条件: スタートボタン(今は止まっているが、条件クリアで動き出す)
- 解除条件: ストップボタン(今は動いているが、条件クリアで止まる)
以前、あるお客様が「条件を満たしたら契約を終わらせたいので、停止条件付き契約書を作ってください」とおっしゃったことがありました。「終わらせる=停止」と連想されたのだと思いますが、これだと「条件を満たしたら契約が始まる」ことになってしまい、全く逆の結果になります。
法律用語は時として日常会話の感覚とズレることがあるため、契約書作成の際は特に注意が必要です。
5. 実務でよく見る「住宅ローン特約」の微妙な立ち位置
ここからは少し実務的なお話です。
不動産を購入する際、「住宅ローンの審査が通らなかったら、売買契約を白紙に戻す」という条項を入れることが一般的です。これを「ローン特約」と呼びます。
これは停止条件でしょうか? 解除条件でしょうか?
実は、契約書の書き方によってどちらにも構成できますが、一般的には「解除条件」的な運用がなされます。
つまり、売買契約自体は一度有効に成立させます(手付金も払います)。しかし、もしローン審査に落ちるという条件が成就してしまったら、契約はなかったことになり(解除)、手付金も戻ってくる、という仕組みです。
もしこれを停止条件(ローンが通ったら契約成立)にしてしまうと、ローンが通るまで契約が成立していないことになり、法的地位が不安定になるため、実務では「契約は成立させるが、ダメだったときは白紙解除」という構成をとることが多いのです。
6. 条件の成就を妨害したらどうなる?
最後に、少し踏み込んだ論点をご紹介します。
もし、「試験に合格したら100万円あげる」と約束した人が、あげるのが惜しくなって、試験当日に受験者の目覚まし時計を壊して寝坊させ、わざと不合格にさせたらどうなるでしょうか?
民法130条では、以下のように定めています。
条件が成就することによって不利益を受ける当事者が、故意にその条件の成就を妨げたときは、相手方は、その条件が成就したものとみなすことができる。
つまり、妨害工作をした時点で、法律上は「合格したのと同じ扱い」になり、100万円を支払わなければなりません。
これはスポーツマンシップのような規定で、「ズルはいけませんよ」ということです。
逆に、条件成就で利益を受ける人が、ズルをして条件をクリアさせても(例えばカンニングをして合格するなど)、それは成就していないものとみなされます。
まとめ:契約書における「入り口」と「出口」
長くなりましたが、最後にまとめです。
| 用語 | イメージ | 現在の状態 | 条件クリア後の状態 |
|---|---|---|---|
| 停止条件 | スイッチON | 無効(待機中) | 有効になる |
| 解除条件 | スイッチOFF | 有効(稼働中) | 無効になる |
ご自身で契約書を作成される際は、その条件が満たされたときに「契約をスタートさせたいのか(停止条件)」、それとも「契約を終わらせたいのか(解除条件)」を明確に意識してください。
もし、「こういう場合はどう表現すればいいのだろう?」「意図した通りに法的効果が発生するか不安だ」という場合は、ぜひ専門家である行政書士にご相談ください。
言葉一つで結論が180度変わってしまうのが法律の世界です。皆様の意思が正しく反映されるよう、私たちがサポートいたします。
📝 契約書の「条件」法律クイズ 📝
親が子に「行政書士試験に合格したら、開業資金として100万円を贈与する」と約束しました。この場合の「合格したら」は、民法上のどの条件に当たるでしょうか?
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