災害や病気で「今すぐ遺言を残したい」ときは?令和8年改正で変わる特別方式の遺言

「突然、大きな病気が見つかった」
「事故や災害に遭い、普通の遺言書を作る時間がない」

このようなとき、「今すぐ遺言を残したい」と考える方もいるでしょう。

一般的な遺言として知られているのは、自筆証書遺言や公正証書遺言です。しかし、遺言者が死亡の危急に迫っているなど、普通の方式で遺言を作ることが難しい場合には、民法に「特別の方式による遺言」が定められています。

そして令和8年(2026年)、遺言制度について大きな民法改正が行われました。特別方式の遺言についても、スマートフォンなどのデジタル機器で録音・録画を利用した新しい方式が追加されます。
今回は、行政書士として、現在の制度と令和8年改正の重要ポイントを整理してみます。

1.そもそも「特別方式の遺言」とは?

遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言などの「普通の方式」があります。
一方で、普通の方式によって遺言をすることが難しい特別な状況を想定して、民法には「特別の方式による遺言」が定められています。

現在の民法では、死亡危急時遺言、伝染病隔離者の遺言、在船者の遺言、船舶遭難者の遺言などが規定されています。

このうち、病気などによって死亡の危急に迫った人を対象としているのが「死亡危急時遺言」です。
これは、通常の自筆証書遺言のように、落ち着いて遺言書を書いている時間がない場合などに利用される制度です。「いつか遺言を書こう」という場面ではなく、「今、遺言を残しておかなければならない」という非常に限られた緊急の場面を想定した制度だと考えると分かりやすいでしょう。

2.現在の死亡危急時遺言は、どのような方式なのか?

現在の民法では、死亡の危急に迫った人が、証人3人以上の立会いをもって、そのうちの1人に遺言の趣旨を口授して遺言をする方法が定められています。
その後、口授を受けた人が遺言の内容を書き取り、遺言者や他の証人に読み聞かせるなど、法律で定められた手続きを行います。

このように、死亡危急時遺言は「本人が紙に書けばよい」というものではありません。また、証人が3人も必要であることなどから、いざという緊急時に証人を確保する負担が大きく、通常の遺言よりも手続きのハードルが高いのが実情でした。

3.令和8年改正!「録音・録画」で証人が1人(WEBも可)に

今回の改正で最も注目したいのが、死亡危急時遺言について「録音・録画」を利用した新しい方式が追加されることです。

改正後は、パソコン等で作成したデータを遺言とすることが可能となり、遺言の作成状況を録音・録画することで、これまで「3人以上」必要だった証人が「1人以上」の立会いで済むようになります。
さらに、この証人1人の立会いはWEB会議(ビデオ通話など)を利用することも認められます。

緊急時に人を集めて紙を使った手続きを行うことだけを前提とするのではなく、スマートフォンなどのデジタル機器を利用することで、遺言を残しやすくなる画期的な改正です。

4.大規模災害時は「証人なし(0人)」でも可能に

今回の改正では、災害時の遺言制度も大きく整備されました。
従来は「船舶遭難者の遺言」という規定がありましたが、改正により、大規模な地震などの「天災その他避けることのできない事変」に遭遇して死亡の危急に迫った場合も、特別方式の遺言の対象に明確に加わりました。

さらに、このような大規模災害等の緊急事態においては、口頭で遺言する状況を録音・録画し、そのデータを特定の者にメール等で送信することによって、「証人の立会いを不要(0人)とする」方式も新設されました。

とはいえ、「災害ならいつでも適当に動画を撮ればよい」というわけではなく、「普通の方式で遺言を作ることができない状況か」「死亡の危急が迫っているか」といった厳格な法律の要件を満たす必要があります。

5.要注意!令和8年改正法は「今すぐ」には使えない?

ここは今回の記事で特にお伝えしたいところです。

令和8年6月、民法の一部を改正する法律が成立・公布されましたが、すべての改正内容がすぐに施行されるわけではありません。
この「特別方式の遺言(録音・録画方式など)」に関する改正は、「公布の日から1年を超えない範囲内の政令で定める日」から施行されることになっています。

つまり、遅くとも2027年6月23日までには利用可能になりますが、2026年9月現在は、まだこの新方式を利用できる段階ではありません。
現時点で緊急に遺言を残す必要がある場合には、現在施行されている法律(証人3人の立会いなど)に従って対応する必要がありますので、ご注意ください。

6.「今すぐ遺言を残したい」と思ったら、まず何をする?

病気や事故などによって、急いで遺言を残したい状況になった場合、まず重要なのは、本人の意思を確認することです。
そのうえで、普通の方式による遺言が可能なのか、それとも特別方式を検討する必要があるのかを判断することになります。

特別方式の遺言は、普通の遺言書よりも方式が特殊です。

  • 証人の人数
  • 記録の残し方(現在の書面方式か、今後のデジタル方式か)
  • 作成後の家庭裁判所での確認手続き

これらについて法律上の要件があります。緊急時だからこそ、「とりあえず家族の前で話して録音しておけば大丈夫」と自己判断せず、法律上の要件をしっかり確認することが大切です。

7.遺言は「元気なうちに」が基本。専門家へのご相談を

これまで私は、遺言については「元気なうちに準備しておくこと」が大切だとお伝えしてきました。
通常の自筆証書遺言や公正証書遺言で準備できるのであれば、時間に余裕を持って作成する方が確実だからです。

しかし、人生には予定していなかった出来事が起こることがあります。そのようなときに備えて、特別方式の遺言という制度があります。
令和8年改正により、デジタル技術を活用して、より迅速に自分の意思を残せる環境が整いつつあります。

私自身、行政書士としてご相談をお受けする中で、遺言は「いつか作るもの」ではなく、「自分の意思を整理しておくもの」だと感じています。
緊急時の特別方式を知っておくことも大切ですが、できることであれば、時間に余裕のあるうちに、ご自身の希望を整理しておくことをおすすめします。遺言についてご不安なことがあれば、ぜひお気軽に行政書士にご相談ください。


※本記事は、2026年9月時点で確認できる法令・公表資料に基づき、一般的な制度を説明したものです。特別方式の遺言は、個別の状況によって適用される制度や必要な手続きが異なります。実際に遺言を作成する場合には、最新の法令・施行状況を確認したうえで、専門家や関係機関にご相談ください。                                          ※本記事の内容は、執筆時点の法令・情報に基づき一般的な解説を提供するものであり、特定の事案についての助言・判断を目的としたものではありません。実際の手続きや対応方法は、状況・地域・関係機関・契約内容等によって大きく異なります。そのため、本記事のみを根拠として判断・行動されることはお控えいただき、個別の事情に応じた専門家への相談をおすすめいたします。本記事の内容に基づき生じたトラブル・損害等について、当事務所は一切の責任を負いかねますのでご了承ください。                    

🏥 特別方式の遺言ルール チェック 🏥

現在の民法における「死亡危急時遺言」の手続きとして、正しいものはどれでしょうか?

✅ 全問終了です!お疲れ様でした!

緊急時の遺言制度は令和8年改正でデジタル化が進み、将来的に大きく利便性が向上しますが、現時点ではまだ新しい法律は施行されていません。遺言は「もしも」の時に備える大切なものです。時間に余裕がある元気なうちに、ご自身の意思を整理しておくことをおすすめします。遺言に関するご不安や準備については、お気軽にご相談ください。

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